書評紹介
読書
彰国社・2,400円
二十世紀に誕生した近代建築は,生活様式と工法,スタイルの革新を目指し,機能重視,規格化,標準化などの合理性を尊び,普遍的な国際建築の性格を含んでいた。
アメリカの建築家ライト(1867〜1959)は,旧帝国ホテルの設計者として日本でなじみだが,1910年ドイツで初期の住宅作品集を出版し,近代建築揺籃期の西欧に大きな影響を与えた。
しかし,自身は「有機的建築」を標榜し,近代建築を批判しつづけたことでも知られる。
著者の持続的関心は定まらぬ現代建築の有り様にあり,源流の一つであるライトの建築と思想の再考へと向かわせる。曲折ある生涯を五期に区分し直し大きな流れとして作品と思想を丁寧にたどり,
同時期のモダニズムとの関係を広がりとして解き明かす。
本書の魅力は,近年を含む豊富な言説の総括的な評価と,なにより,すべての作品分析がアメリカ全土に散在する四百(内住宅80%)を超す建築の相当数を現地に訪ねた,著者長年の空間体験に
基づくことにある。とくに後半,幾多のユソニアン住宅を対象とした感性的記述は,著者ならではの新しい試みであり,読みごたえがある。
オランダのデ・ステイル,ドイツのバウハウスに与えた影響はつとに知られるが,ウィーンで分離派のワグナーらの建築と出あい,その刺激がマヤ,インカなどプリミティブ追求の要因とする非西欧の
プリミティブ追求の要因とする二つの黄金期に挟まれた複雑な二十数年間の解明は創見を含み,とりわけ興味深い。
ライトの内なるモダニズムの探求を通して,今に息づく建築空間を体験した著者は,そこに場所の固有性と一体化した生活中心の奥行きのある高度に統合された住空間を認め,普遍に開く現代性を確認する。
本質にふれた啓示的な体験が,「落水荘」などの名作ではなく,ニューヨーク郊外の森に建つ,中流階層向けのライトとしてはありふれた一つのユソニアン住宅であるのは象徴的であり,建築のゆくえを考えさせられる労作である。
小林良雄・建築家 地域建築空間研究所