書評紹介
プロジェクト・ブック
BRUTUS 2005年 号より
BOOK
建築文化シナジー『プロジェクト・ブック』阿部仁史・小野田泰明・本江正茂・堀口 徹編著/彰国社/2,500円/ブレスト実況中継の中で,スタッフから示されたスタディー図面に対し,「これはなんだ!?(中略)これが設計事務所のフラストレーションなんだよ。これ,どうするんだよぉ」と激高する先生。
ここから状況を立て直し,よりよい案を創出するブレストの真骨頂。
創造的プロジェクト養成ギプス。面白いけど,かなりハード。
建築事務所を立ち上げようと思っている人から,新しい発想に飢えているサラリーマンのオジサンまで有効。
『××発想法』やら『あなたを変える100の習慣』みたいなタイトルの,古今東西の箴言,警句を薄めたりのばしたりしてでっち上げたヌルいビジネスハウツー本を読んでるおじさんを見かけると,「そんな本読んでる限り,新しい発想やチャンスは生まれませんぜ,ダンナ」と言いたくなる。問題Aには解決策A′,問題B には解決策B′,なんて悠長に「傾向と対策」を数え上げて悦に入っていたら,
未知の問題Cに直面した時,とっさに新しい解決策C′を思いつくことなどできないではないか。ある領域に特化した知識を深めることも必要だが,他方では,いかなる局面においても状況を大掴みに把握し,そこから構造を抽出して最適な対応を導き出せるように,風呂敷系思考の練度を上げるべきなんである。いっそ「ビジネス書」の棚に『華麗なるギャツビー』とか『ヴェニスの商人』『大いなる遺産』なんかを置いとけば,間違って手に取ったおじさんたちの認識にコペルニクス的転回を引き起こし,斜陽化する日本経済を劇的に浮揚させることができるのではないだろうか。
さてこの『プロジェクト・ブック』も勘違いしたあさはかな(もしくは邪悪なまでに知的な)書店員が,ビジネス書の棚に置きそうなナリをしている。てか,ぜひそうしてほしい。「『創造』を『モノ』として切り出すのではなく,身体・環境・時間を含み込む『コト』として取り出す」と謳っているとおり,実際行われた建築プロジェクトの記録(ブレスト実況中継!),プロジェクトの過程で有効に使える。汎用性の高いキーワード群(1分で説明する,15分寝てみる),11人のコラムからなる本書は,当然建築系プロジェクトに関わる人だけでなく,学校や社会で,他人とコラボしつつ創造的活動に携わるあらゆる人にとって有効,
かつほどよく具体性もある。風呂敷系思考の練習帳,初心者向けルールブックになっている。いきなり,『カラマーゾフの兄弟』のように茫漠とした思考の風呂敷を広げて途方に暮れるよりも,まずこのあたりから始めてみれば,迷子にならずに「新しい発想」へたどり着くことができる……かもしれない。
●橋本麻里/ライター
PEN 2005年No.153号より
BOOK
冒頭に,この本の使い方が明記されている。そこでは「通読しない,パッと開いて読む」「気になるところだけ読む」といささか不真面目な読み方が提唱されているが,実際,そんな読み方がもっとも適した本なのである。
デザインプロジェクトに関する63のキーワードに基づく簡単な文章と11のコラムのほか,過去のプロジェクトの詳細を4人の建築家が,テンポよく書いた。「アイデアに名前をつけろ」
といった行き詰まっているときの突破口になりえる提案や「個人はアイデアの責任と所有を放棄せよ」といった組織の活性化につながる考え方は,まさに実用となる。今すぐ読むのもいいし,本棚の片隅に置いておけば,忘れかけた頃に役立つ,ということもありそうだ。