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倉方俊輔 読み継ぐべきこの3冊 

言葉が活字として定着して、もう変えられないということが本の面白さだと僕は思うのです。100年前の言葉も、1年前の言葉も同じように接することができます。ほんとうは「動いていた」言葉が閉じ込められて、そこから今もさまざまな解釈ができる。そういう時を超える言葉の力が込められた3冊を選んでみました。

建築の本質をつかんだことばの数々。喚起されて、古びない! 

建築家吉村順三のことば100

建築は詩

永橋爲成 監修/吉村順三建築展実行委員会 編

四六・132頁 定価1,760円(本体1,600円+税) 2005年1月

吉村順三さんの言葉には、すごく力があります。ほんとうにありふれた単語の組み合わせなのに、いまも喚起されて古びない。この本にはそういう時を超える言葉の強さが詰まっています。住宅とか人間の本質は変わらないけれども、時代とともに少しずつ変化する部分も吉村さんはきちんとつかんでいたのでしょうね。同じ文章でも、たとえば雑誌の中にあると、どうしてもその枠組みのなかで意味を解釈してしまいます。だけど抜き出されてこうして並べられることで、その言葉がほんとうに持っている時を超えたニュアンスがきちんと伝わってくる。「編む」ということが決定的にありようを変えているし、本というまとまりでしかあり得ない完成度になっていると思うのです。

1960年以降の押さえるべき言説、当時のコンテクストがわかる! 

現代建築宣言文集[1960-2020]

五十嵐太郎・菊地尊也 編

四六・432頁 定価3,300円(本体3,000円+税) 2022年2月

この『現代建築宣言文集』は刊行されてよかった。それも当時のコンテクストがわかるような解説も丁寧につけられていて、ほんとうに労作だと思います。菊竹さんや黒川さんのメタボリズム関連をはじめ、1960年以降の有名な言説が入っていて、この本によって改めてその原文に触れることができる意味は大きいですね。要約されたものや、他の文章の中で引用されているのを読んでわかった気になってしまうことが多いけれど、「この名文句はこういう内容の後に出てくるのか」とか、引用では収まらない多くが原文からは読み取れます。締切りに追われて書いているような切迫感であったり(笑)、手書きの文章ならではの勢いが感じられるのも面白い。

予定調和じゃない言葉が共鳴していくのが面白い! 

吉祥寺ハモニカ横丁のつくり方

倉方俊輔 編

四六変・232頁 定価2,090円(本体1,900円+税) 2016年4月

選んだ3冊の中で唯一僕がかかわったものですが、これは不思議な本。書名で「ハモニカ横丁のつくり方」と謳っているのに、こうすれば成功するというハウツーを初めからまとめようと思っていない(笑)。収録された対話のなかで、みんなが語りながら探っています。そのインタビューが集まって、今度は読者も読みながら探っていく、そういう本。本人も意識していないけれど、違う人の言葉とたまたま共鳴している部分が発見できたり、全体の理屈だけに回収できない言葉で織り成されています。実際の対話というものが文字になることによって情報量は当然減るけれど、何か別の情報量が出現している感じがこの本の魅力ですね。

倉方 俊輔(くらかた しゅんすけ)
1971年、東京生まれ。現在、大阪公立大学大学院工学研究科教授。主な著書『吉祥寺ハモニカ横丁のつくり方』(彰国社)、『吉阪隆正とル・コルビュジエ』(王国社)ほか多数。

著書のご紹介 

建築文化シナジー ル・コルビュジエのインド

彰国社 編/北田英治 写真 B5変・160頁 定価2,619円(本体2,381円+税)

1951年、63歳で初めて訪れた混沌のインドで、コルビュジエの合理精神は何を考えたのか。彼は、その後23回インドへ渡り、チャンディーガルとアーメダバードを中心に庁舎、美術館、住宅などを残した。これらの建物を、写真家・北田英治の撮りおろし写真と、建築家・宮本佳明、後藤武と建築史家・倉方俊輔による現地座談会を核に紹介する。とくにチャンディーガルの議事堂の内観は圧巻。

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